オランダ絵画の黄金時代−アムステルダム国立美術館展
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風俗画
Amsterdam

第8章風俗画
 「風俗画」という言葉は、家の内外や居酒屋あるいは仕事場における人々の日常的な行いを描いた作品を指しています。風俗画の多くは実景から描かれたように見えますが、実際には画家のアトリエで制作されました。また、一見写実的な作品が、隠された道徳的なメッセージを持っていると近年の研究で明らかになりましたが、その意味を正確に解明するのは容易ではありません。17世紀には、この種の作品に大変な人気があり、おそらく人々は描かれた場面の面白さを楽しむだけでなく、隠された謎を解くことを楽しんでいたのだと思われます。この章では、農民の姿や市民生活に題材を得た風俗画をご紹介します。

カスパル・ネッチェル 《子供の髪を梳いている母のいる室内 (通称「母親の世話」》

カスパル・ネッチェル
《子供の髪を梳いている母のいる室内
(通称「母親の世話」)》1669年
アムステルダム国立美術館蔵

  この絵には様々なものが描かれています。子供の髪を梳かしている母親、従順に母のひざにもたれている子供、画面右側で鏡にむかっておかしな顔をしている子供、画面左から水差しとたらいを持って入ってこようとする女中、母親の足元に転がっている独楽、風車。これらは子供を正直で善良な人間に育てるための親の義務についての暗示が込められたものであるとされています。髪を梳かすことは、迅速な措置をとるべきであるということ、独楽は子供のしつけのためには時にはむちを使わなければならないということを示し、子供を厳格に育てる母親の義務についての教訓が込められているということです。また従順な子供といたずらな子供の対比もこの絵で表されています。
 作者のカスパル・ネッチェルは優雅な人物のいる室内を描いた風俗画で人気のあった画家でした。彼の洋服の生地の質感を表現する技術は大変見事です。オランダの風俗画を眺めるとき、描かれたモチーフがそれぞれ象徴している意味内容も「謎解き」の喜びを与えてくれますが、様々な物質の質感を写実的に見事に描き分けた画家たちの技術も同時に私達の目を楽しませてくれます。

 フェルメールは17世紀オランダ画家の中でも最も傑出した画家のひとりです。彼はデルフトで生れ、生涯をその地で送りました。現在知られている作品はわずか30点ほどにすぎず、ほとんどがこの絵にみられるような室内の情景です。この風俗画も単なる目の前の情景を描写したものではなく、《恋文》というタイトルからもわかるように恋愛にまつわる物語がテーマとなっているとされています。作品を読み解く鍵は手紙を手にした女性と、壁に掛かっている、海に浮かぶ船を描いた絵です。演奏を中断して召使から手紙を受け取った女性はいぶかしげなようすで召使を見つめています。この手紙が恋文とされているのは、背後の絵と深い関係があります。つまり、海に浮かぶ船は揺れ動く恋人たちの心情と重ね合わされ当時は恋愛を象徴する図像として理解されていたからです。手紙の習慣は17世紀初頭にオランダの郵便制度が整備された結果広まったと言われています。一方でフェルメールは手前の部屋から奥を覗き込むような構図を採用しており、奥の部屋には画面左上方から光が差し込み、人物を照らし出しています。こうような構図と光の効果によって画中に展開されている物語のひとこまがよりいっそう際立っています。  ヨハネス・フェルメール《恋文》

ヨハネス・フェルメール《恋文》 1669-70年頃
アムステルダム国立美術館蔵


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