源氏物語
- 巻号:明石巻
- 作者:紫式部
内容
のどやかなる夕月夜に、海の上曇りなく見え渡れるも、住みなれ給ひしふるさとの池水に思ひまがへられ給ふに、いはむかたなく恋しき事、いづかたとなく行へなき心地し給ひて、ただ目のまへに見やらるるは、淡路島なり。「あはとはるかに」などの給ひて
あはと見る淡路の島のあはれさへ残るくまなく澄める夜の月
ひさしう手ふれ給はぬ琴(きむ)を、袋より取り出給ひて、はかなくかき鳴らし給へる御さまを、見たてまつる人もやすからずあはれに悲しう思ひあへり。
場所
淡路島 (あわじしま)
現在地
兵庫県明石市の沖四キロの海上、瀬戸内海の東隅の瀬戸内海第一の島。津名郡、三原郡、洲本市をいう。