源氏物語
- 巻号:明石巻
- 作者:紫式部
内容
例の風出で来て、飛ぶやうに明石に着き給ひぬ。ただはひ渡るほどは片時の間といへど、猶あやしきまで見ゆる、風の心なり。浜のさま、げにいと心異なり。人しげう見ゆるのみなむ、御願ひにそむきける。入道の、領じしめたる所どころ、海の面にも、山がくれにも、時々につけて興をさかすべき渚の苫屋、おこなひをして、後の世の事を思ひすましつべき山水のつらに、いかめしき堂を建てて、三昧を行ひ、此の世のまうけに、秋の田の実を刈り収め、残りの齢つむべき稲の倉町どもなど、をりをり所につけたる見所ありてし集めたり。高潮におぢて、この頃、むすめなどは、岡辺の宿に移して住ませければ、この浜の館に、こころやすくおはします。
場所
明石 (あかし)
現在地
兵庫県明石市