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兵庫ゆかりの文学

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高浜 虚子

たかはま きょし高浜 虚子

  • 明治5~昭和34(1872~1959)
  • ジャンル: 俳人・小説家
  • 出身:愛媛県松山市

作品名

泊雲の墓に詣る

概要

十一月八日
杞陽、宵川等が但馬から来た。午前泊雲の墓に詣つた。
墓は山裾にあつて遠く菩提寺石像寺と対してをり、清浄な手広い瑩域である。私が此の竹田村を訪ふのはこれで五度目であると思ふ。四度目迄は喜び迎へて何くれと奔走してくれた人が、今日亡いといふことは何より淋しいことである。
尤も今度は其墓参の為め遙々出掛けて来たのである。其墓の下には、傍らにある墓の下の其妻と共に、静かな安らかな眠りに就いて、嗣子謙三の確と其業を継いでをることを知つてをることと思ふ。

午後石像寺の句会に臨んだ。木国が大阪から来て、これから私等と行を共にしたいとのことであつた。
嗣子と我と七八人の墓詣り虚 子
思はざる汝夫妻の墓詣り
老の杖運びて果たす墓詣り
十重の山断ち截る芒二本かな謙 三
師事せしは俳事のみかは人の秋
自転車に積まれて猪の通りけり桑 子
菊作りして百姓になりきれず栗畝子
句会終へ丹後へ帰る日短さむろ
なだらかな山の麓の草紅葉寸 滴
らくに打つ牛の鼻杭草紅葉幹 也
落し鎌心しつゝや草紅葉一 静
猪垣に山そゝり立ちたゝなはる一 天
葉先日に焦げてするどし草紅葉
草紅葉の中よりかゝる仮の橋曳 路
忌あけて詣でし墓や草紅葉李 堂
コスモスを活けて洋間の青い翳宵 月
知り人も出来この里や草紅葉
我が植ゑし菊を手折りて墓詣り千佐子
猪住むや丹波丹後の山つゞき鳳 山
猪垣を組む杭負うて渉る奇 水
渡場の舟より猪を下し居る天虫子
忘れ鎌いつまであるや草紅葉白 雨
息白く大猪へ灯をかざず野 水
先生を迎へてさぞや泊雲忌籠 鳥
一筋の落穂藻にのりきのふより木 国
時雨来ぬ先づ出て見よや雑木山立 子
鯉も老いこの寺も古り幾秋ぞ年 尾
墓詣りして賑かや俳句会虚 子
彼方にも時雨宿りの野路の家
小十人今隠れつゝ柿たわわ
風出でて時雨のあとの早空し虚子

宿に訪ねて来た人の中に鳳山があつて、三十余年前に泊雲、籠鳥一緒に私に従つて叡山の横川中堂に澁谷慈鎧を訪ねたことなどを話した。そんなことをあつたことを思ひ出した。

十一月九日
但馬和田山の古屋敷香葎方に行く。年尾が罹災した後はその家族は其宅に同居して、厄介になつてゐるのである。暫くぶりに孫どもにも逢ふ。
香葎はその家族、用人達にも俳句を作らせてをり、この頃は孫どもも誘はれて句を作るとかいふ話である。
(後略)

『兵庫県文学読本 近代篇』のじぎく文庫 121?124P

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