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兵庫ゆかりの文学

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内海 信之

うつみ のぶゆき内海 信之

  • 明治17~昭和43(1884~1968)
  • ジャンル: 詩人
  • 出身:龍野市

作品名

高嶺の花

概要

いづこより吹かれ来し一粒の種子か
高嶺のいたゞき
駒草の花のもゆる鮮紅よ。

直とのびし細茎
風はその花をかすめて
遠く遠く吹き過ぐるに
高くしてたへがたき寂しさあり。

日の光冴えてみなぎれども
見あぐる虚空(おほぞら)
かぎりなき濃青(こあお)の深みに知る
大いなる畏怖(おそれ)と
弱き心の孤独よ。

身はいやしくして
思ひのみ高きに過ぐる悲哀か、
たとしへもなきいのちの寂しさあり。

高嶺のいたゞき風は寒し、
巨岩(おほいわ)の虧隙(われめ)に根を這はせ
澄みわたる大気を吸ひて生くる花よ、
無垢なる唯一の誇りもあれ。

人跡絶へたる境に
『美』よ『優秀』の讃賞(たたへ)もなう、
珍(うず)の色香の艶なるにも
小鳥も啄まず蝶も戯れず
空しく咲きては枯るゝ花よ。

あゝあゝ駒草、
もゆる鮮紅の花にもなほ
まとふは冷陰の影とにほひ。

こゝにして此の花をかすめ
寂黙みなぎるおほ天地(あめつち)の
いづこよりいづこへか
長きに吹きわたる風の前に
孤独の生の寂しさを訴へなやむ。

『内海信之人と作品』田畑書店 39?40P

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