常設展示

兵庫ゆかりの文学

  1. TOP
  2. 常設展示
  3. 兵庫ゆかりの作家
  4. 兵庫ゆかりの文学
  5. 我が歩める道

三木 露風

みき ろふう三木 露風

  • 明治22~昭和39(1889~1964)
  • ジャンル: 詩人
  • 出身:兵庫県龍野市

作品名

我が歩める道

刊行年

1928

版元

厚生閣

概要

私の郷里は、後ろに山を負ひ、前に河を控へてゐた。山は鶏籠山、台山、白鷺山と云ひ、北と西とに聳え、其の中で鶏籠山は、風致林として伐木を禁じられてゐた。昔、朝霧城が其の頂上にあつた。風致林であるだけ、樹木が欝蒼と茂り、松柏の間に山桜がまぢつて春はそれが美しく咲いた。私は少年の頃一人山に登るのが好きであつた。十歳位の時から、十五六歳迄私の遊び場所は山か谷か或は河かであつた。中にも山は最も私の好むところであつた。私が成人して後、其の頃の登山の記憶を歌つた童謡がある。それは私の童謡集『真珠島』に収めてあるものだが、今私の少年期の生活と感情とを明らかにする為めに其の追憶童謡を掲げるのもむだではあるまい。


山づたひ

ひとりさみしい山づたひ、
わたしはけふもさがします。
見たことのない「幸福」を。

山のむかうのまたむかう、
空のむかうのまたむかう、
わたしはいくつ越えてきた。

わたしがさがす「幸福」は、
山のいづこでうたふやら、
谷のいづこにすまふやら。

知らない山をあふぐとき、
知らない谷をのぞくとき、
わたしの胸はふるへてゐた。

あかい夕日が照らすとき、
山の緑にしづむとき、
山には何の音もない。

わたしは鵠の巣のそばで、
鳥の卵を抱いてゐた、
なみだながらに抱いてゐた。


真珠島

一、磯へ出て
青い貝を拾ひませう
こゝはさみしい真珠島
さみしいさみしい真珠島
二、磯で拾ろふた何拾ろふた
あゝかい心の紅の貝
くらい命の盲貝
信で光る真珠貝
三、海の島数貝のかず
貝はいろいろあるけれど
信は一つの真珠貝
信は一つの真珠貝
四、此処は淋しい真珠島
淋しい淋しい真珠島
来世の風にあこがれて
沙に咲いてる紅い薔薇


『三木露風全集第2巻』 日本図書センター P.162?163

三木 露風の紹介ページに戻る

ページの先頭へ