きやま しょうへい木山 捷平
- 明治37~昭和43(1904~1968)
- ジャンル: 小説家
- 出身:岡山県
作品名
神戸のマツチ工場から帰つたおしの
概要
柿の下の野風呂に入つて
おしのはどんぶり首まで沈んでゐた。
――おしのさん、たいちやろか?
――いいえ、えいあんばい!
神戸のマツチ工場から帰つたおしのは
久し振りのやうに空を仰いでゐた。
――きれいなお月さんぢやな!
――きれいなお月さんぢやろ!
柿の繁みの間から
お月さんも久し振りにおしのを見てゐた。
――おしのさん、神戸はえいとこかい?
おしのはめつきりやせてゐた。
そして青白くなつてゐた。
――おしのさん、もう神戸なんかへ行かんとけよ。
――ええ、もう神戸なんかへ行かんわ。
どこやら向うの石垣で
チンチロリンがないてゐた。
『木山捷平全集 第一巻』講談社 49P