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兵庫ゆかりの文学

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きのした りげん木下 利玄

  • 明治19~大正14(1886~1925)
  • ジャンル: 歌人
  • 出身:岡山県

作品名

住吉日記

概要

大正七年
(中略)
一月十日 木曜 晴
午後四時頃から思ひ立ち、西の宮神社十日戎に参詣する。丁度東京の酉の市のやうなものだ。
吉兆や福笹を賣る店が境内に出てをり、肩を觸れあひ、ぢりぢりでなくては進めぬやうな混雑だ。松が砂地に立つてゐる。平素は静かでありさうな社が、今日は塵埃と群衆で自然の風致は見られない。自分は本社に拝して縁起に吉兆、箕、俵を買つて帰つた。
夜、松井氏の芳名録に『夕川のたぎちのさむさ磐床に息をふかめてわれ立ちにけり』を書いた。

(中略)

九月一日 日曜 晴
午前、紅玉原稿『山上』訂正。
今朝粟?焚かれ嬉しく覺ゆ。
午後、照子壽子と阪神電車を新川に降り、布引瀧に上る、途中の川の中に障子を洗つてゐる人、大きい松の影が、川の流れと向うの堤の青葉に落ち、日向の光がしみじみ照つてゐるのを秋だとおもふ。
雌瀧に先づ行く。晩夏の日照りに木陰の山肌や岩のしめりを愛づ。雌瀧も水が今朝未明の雨に増して仲々すがすがしい。
雄瀧に上り休む。原口榮三郎氏夫妻にあつた。
松に、のうぜんかづら上れり。山上の松に夕陽の静けさ、嬉しく樂しい。山を下り、湊川神社に詣づ。楠子の墓に額づくやさしい娘を見た。見てゐたら目をふせた。

(中略)

九月六日 金曜 晴
非常に暑い。午前旅行準備。
午後二時三十七分佳吉發有馬に向ふ。住吉驛にて出征兵士をのせた列車を見た。子供たちが日の丸の旗を振つて萬歳を唱へてゐる。中の兵隊も居眠りしてゐる人や、おなじく旗を振りつゝ萬歳を云つてゐるものもある。自分も帽子を振つた。さうして出征兵士を送る時に味ふ悲壯な氣がした。三田からの汽車に女の子の可愛いのをつれた女西洋人が乗つた。それに紙きり虫が出て、それを子供が指したりして可愛かつた。有馬に近づくと山の斜面に女郎花や萩が咲いて、山らしい好い氣がした。花の坊別荘に宿をとる。夜、家族温泉に入る。

(中略)

九月十八日 水曜 曇
神戸湊川新開地へ、東京大角力を見に行く。仲々の入りである。角力取は皆元気にとってゐる。見てゐる檢査役も熱心に與つてゐる。四横綱の土俵入は、鳳のが一番形よく、大錦のは派手で、栃木山これに次ぎ、西の海のが一番拙い。幕内の勝負では、逆鉾に友の浦。常の花に大潮。千葉ケ崎に大錦などの勝負が面白かつた。鳳と栃木山もおもしろかつた。鳳の勝だつた。

(後略)

『木下利玄全集 散文篇』臨川書店 398、428、430、432P

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