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兵庫ゆかりの文学

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稲垣 足穂

いながき たるほ稲垣 足穂

  • 明治33~昭和52(1900~1977)
  • ジャンル: 小説家
  • 出身:大阪

作品名

明石から

概要

明石の月は多分南欧の月みたいに見えるのでないかと云って来た人があります。又、夜毎夜毎にきらめく夜光虫は、平家の恨みのネオンサインであろうなどとも。成程、そんな風に云うとこの土地もややしゃれたものになりますね。そう思ってみれば、月はナポリだし、バクテリヤは平家の恨みのようでもあります。アイルランドでは、絹のハンカチをとおしてお月さまを見たら、その四隅が見えるよと云いますね。四角いお月さまです。
僕が大抵いる所はこのお寺、明石の西はずれ、海辺近くにある月浦山無量光寺です。寺男でも修業でもありませんが、これで三年になるからお寺の用事も大体判って来ました。
ここは光源氏の遺趾、別名月見の寺と云って、月を見る望楼が二三十年前まではあったそうですが、今はありません。源氏が通っていたお姫さんの家、即ち明石入道の屋敷跡なので、つたの細道というものもあります。しかし別にエハガキを買ってくれとは云いませんよ。
若き住職は小川龍彦氏、今は民芸品のオーソリチィなんで、柳先生などがお見えになります。武者小路、倉田という方にも縁がありますが、近頃は福原、竹中さんなどがいらっしゃいます。先日、山村、福原、竹中、それに僕がお酒をのんでいたら、「ともかく先生方であることには間違いはない」と、こう女共が云っていました。但し何の先生であるかはとうとう判らず仕舞。お盆で忙しくなりますからこのへんでごめんこうむります。二三日したら本当の七夕ですね。

人の世やラフォルグ張の月夜なり

たふとしやラフォルグ様の星祭り

『稲垣足穂全集 第12巻』筑摩書房 258P

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