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本展覧会では、特に力を入れてご紹介する傑作14邸を中心に、
20世紀の建築家たちの挑戦を以下の7つの観点に着目してご紹介します。
01 衛生: 清潔さという文化
HYGIENE: creating a culture of cleanliness

2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の流行からも分かるように、古来、感染症の克服は、人類が生き延びるための重要な課題のひとつです。急速に都市化が進み、人々が密集して暮らすようになった19世紀のヨーロッパでは、感染症から身を守るため、公衆衛生に対する関心が深まりました。そして、病原体を特定し、適切に処方されるようになった医学の進歩にともなって、住まいも科学的に見直されるようになりました。本展覧会でご紹介するモダン・ハウスの浴室や洗面には、清潔さや健康といった近代における衛生と身体への眼差しがあらわれています。

02 素材: 機能の発見
MATERIALITY: discovering physical functions

20世紀の初頭、鉄やコンクリートによる新たな構造法が広まり、住まいの建設に用いられるようになりました。ガラスの大量生産も可能になり、住まいはそれまでの重々しい素材から解放されていきます。時代の変化に刺激をうけた建築家たちは、鉄やガラスのみならず、木材やタイル、テキスタイルといった伝統的な素材にも、新しい住まいの快適さを生み出す可能性を探究しました。本展覧会では、モダン・ハウスにおける新たな素材の使われ方を紹介します。

03 窓: 内と外をつなぐ
WINDOW: framing indoor / outdoor living

鉄やコンクリートによる新たな構造法の導入によって、大きく変容したのが窓でした。ヨーロッパのかつての石造りの建物では、開口部の大きさに限りがありました。しかし、強度を増した建物には大きなガラス窓を設置することができ、そこから日光や風を得るだけでなく、窓を閉めても眺望を楽しむことができました。このことは、それまでの屋内と屋外の境界に対する考え方を本質的に変え、窓を通じて、内と外が浸透するようになったのです。本展覧会で取り上げるモダン・ハウスの個性的な窓をとおして、内と外をつなぐ豊かな演出をみることができるでしょう。

04 キッチン: 現代のかまど
KITCHEN: modernizing the hearth

工業が発展した19世紀には、労働の効率が重視されるようになりました。こうした考えは住まいにも入り込み、キッチンに反映されていきます。1926年にドイツのフランクフルトの集合住宅のために設計されたフランクフルト・キッチンは、少ない動作で効率よく調理や配膳ができるように工夫された、いわゆるシステム・キッチンの先駆けでした。炊事場は、ヨーロッパでは地下、日本では土間など、住まいの裏に置かれました。しかし、核家族が主流になるにつれて、それは食堂や居間に近い、家族が集う明るく中心的な空間に組み入れられるようになったのです。そこには、女性の多様な生き方も反映されています。モダン・ハウスのキッチンには、家事をとりまく社会的な考え方の変容が映しとられています。

05 調度: 心地よさの創造
FURNISHINGS: creating comfortable living

19世紀のヨーロッパでは、過去の様式を脈絡なく模倣し、質的にも粗悪な量産品が巷にあふれたことへの反省から、さまざまなデザイン運動が生まれました。20世紀にこれを引き継ぎ、後の世に大きな影響を与えたのが、1919年にドイツのヴァイマールに開校したバウハウスでした。バウハウスは、織物、金属器、照明や家具など、身の廻りの品々に、機械生産にも適合したシンプルで機能的なデザインをほどこしました。また、調度にも統一感や快適さをもとめた多くの建築家たちは、家具などを自らデザインしました。本展覧会では、人々の美意識までをも変えたバウハウスの作品群をはじめとし、20世紀の人々の暮らしを彩ったさまざまな調度を紹介します。

06 メディア:
暮らしのイメージ
MEDIA: visualizing the dwelling

19世紀における写真の発明や印刷技術の向上を経て、20世紀に入ると、マスメディアとしての新聞や雑誌の影響力がますます強くなりました。建築家やデザイナーもこれを強く意識し、ル・コルビュジエや藤井厚二などは、自らの考えを活字やイメージで世に広めようとしました。また、1927年にドイツ工作連盟が開催した「住居」展など、20世紀以降、戸建て住宅の普及にともなって住宅の展示も広く行われるようになりました。本展覧会では、人々を魅了する理想的な暮らしのイメージを伝えたメディアとして、書籍や雑誌、住宅展示などを取り上げます。

07 ランドスケープ:
住まいと自然
LANDSCAPE: living in nature

住むための人工的な空間を、地形を含めた自然の環境にどう位置付けるのか。自然との調和をもとめるランドスケープをめぐる課題は、20世紀のモダン・ハウスにとっても重要な問いとなりました。私たちは、大きなガラス窓を通じて、変化する四季、成長を続ける植生を身近に感じることができます。このことは窓だけでなく、衛生にも密接にかかわります。急速な近代化によって失われた自然とのつながりを住まいに取り戻すことは、心身の健康にもつながるからです。本展覧会では、ランドスケープという観点から、住まいと自然を調和させようという試みについて考察します。

14邸の鍵となる住宅
01 /14
ル・コルビュジエ ヴィラ・ル・ラク 1923年
Le Corbusier, Villa ≪Le Lac ≫, 1923

スイスのレマン湖畔に、ル・コルビュジエが両親のために建てた小さな住宅。ほどなく母ひとりが住むようになった。湖に面した11mの長い窓が特徴の細長いコンパクトな空間には、来客時のベッドも含めて、必要最小限の設備が機能的におさめられている。

02 /14
藤井厚二 聴竹居 1928年
Koji Fujii, Chochikukyo, 1928

京都の大山崎町の山林に建つ、藤井の5番目の自邸。家族と暮らした「本屋」、趣味を探求した「閑室」、来客を招いた「茶室(下閑室)」からなる。木造モダニズムの傑作と称されるが、日本の気候風土や生活様式を意識した工夫が凝らされている。藤井は、住まいと暮らしに関する自らの先進的な考えを論じた英語の書籍も刊行した。



藤井厚二 聴竹居 1928年 撮影: 古川泰造
Koji Fujii, Chochikukyo, 1928 Photo: Taizo Furukawa
03 /14
ミース・ファン・デル・ローエ トゥーゲントハット邸 1930年
Le Corbusier, Villa ≪Le Lac ≫, 1923

チェコ共和国のブルノ市にある、繊維業で成功したトゥーゲントハット夫妻の邸宅。通りから見ると平屋のようだが、高台の地形を生かした3階建ての建物である。内部には、ミースがデザインした家具が置かれた。鉄の独立柱で支えられた空間は、カーテンや縞瑪瑙の間仕切りなどで、機能的に緩やかに区切られている。

04 /14
ピエール・シャロー メゾン・ド・ヴェール 1932年
Pierre Chareau, Maison de Verre, 1932

パリの婦人科医のクリニック兼住居として設計された。別の居住者がいた3階建ての建物の最上階を鉄骨で支えつつ、下2層を解体して3フロアが新設された。ガラスブロックのファサードで覆われた内部は、グリッド状に仕切られ、窓や棚、扉などには、機械仕掛けのさまざまな可動システムが導入されている。



ピエール・シャロー メゾン・ド・ヴェール 1932年
撮影: 新建築社写真部
Pierre Chareau, Maison de Verre, 1932 Photo: Shinkenchiku-sha
05 /14
土浦亀城 土浦亀城邸 1935年
Kameki Tsuchiura, Tsuchiura Kameki House, 1935

土浦夫妻によるふたつ目の自邸。東京の上大崎に建てられた木造乾式構造の建物は、様式、整備ともに欧米の最新の動向を取り入れつつ、日本の風土にも適合するよう設計された。内部は、敷地の高低差を生かした5つのフロアでゆるやかに繋げられている。信子は、家事労働の軽減を意図して台所を機能的に設計している。

06 /14
リナ・ボ・バルディ カサ・デ・ヴィドロ 1951年
Lina Bo Bardi, Casa de Vidro, 1951

イタリア出身のボ・バルディが、ブラジル国籍を得た1951年にサンパウロに建てた自邸。高台のガラスファサードで覆われた建物の周囲には、建築家自身が吟味して植物を植えた。植物や土着の文化に関心が高いボ・バルディは、その開放的な室内を、地元の木材を使って自ら制作した家具や、アートディーラーの夫とともに集めた美術品や民芸品で満たした。



リナ・ボ・バルディ カサ・デ・ヴィドロ 1951年
Lina Bo Bardi, Casa de Vidro, 1951
07 /14
広瀬鎌二 SH-1 1953年
Kenji Hirose, SH-1, 1953

本住宅は、広瀬がSH-72まで手がけた鉄骨造りの「SHシリーズ」の記念すべき第一作。1953年に鎌倉材木座に建てられたこの自邸は、極限まで細くした鉄骨のほか、ガラス、レンガ、コンクリートなどの工業製品を材料とした、きわめて実験的な住宅だった。

08 /14
アルヴァ・アアルト ムーラッツァロの実験住宅 1954年
Alvar Aalto, Murtala Experimental House, 1954

フィンランドのパイエンネ湖にある小さな島、ムーラッツァロ島に建てられた、夏を過ごすための自邸。入江から伸びた小道の先のレンガやタイルで覆われた中庭のある本住宅は、敷地内のサウナ小屋や船着場とともにデザインされた。自然との調和や共生を目指したアアルトの思想がよく伝ってくる。

09 /14
ジャン・プルーヴェ ナンシーの家 1954年
Jean Prouve, Jean Prouve’s House in Nancy, 1954

エンジニアだったプルーヴェが、自身が経営していた工場の部材をもちいて組み建てた自邸。構想段階からの変更を余儀なくされながら、プルーヴェ自身が設計、施工までも手がけた。傾斜地に最小限の平地を整え、ありあわせの部材を組み合わせて造られた細長い建物には、ナンシーの街を見渡すさまざまなタイプの窓が設置されている。

10 /14
エーロ・サーリネン、アレクサンダー・ジラード、ダン・カイリー ミラー邸 1957年
Eero Saarinen, Alexander Girard, Dan Kiley, Miller House, 1957

アメリカの実業家、ミラー夫妻の依頼により、インディアナ州コロンバスにサーリネンが設計した豪奢な邸宅。内装にはジラードも参加し、造園家のカイリーが庭園を担当した。見事な調度とランドスケープを取り込んだ広大な庭を含め、きわめて豪奢な邸宅である。



エーロ・サーリネン、アレクサンダー・ジラード、ダン・カイリー ミラー邸 1957年
Eero Saarinen, Alexander Girard, Dan Kiley, Miller House, 1957
11 /14
菊竹清訓、菊竹紀枝 スカイハウス 1958年
Kiyonori and Norie Kikutake, Sky House, 1958

都市や建築も有機的に成長するとする建築運動「メタボリズム(新陳代謝)」を代表する菊竹の自邸。コンクリートの柱で持ち上げられた10×10mの居住空間の周囲に、「ムーブネット」と呼ばれる台所や浴室が、交換可能なものとして設置された。後に、カプセル状の子ども部屋のムーブネットも居住空間から1階のピロティに吊り下げられた。

12 /14
ピエール・コーニッグ ケース・スタディ・ハウス #22 1960年
Pierre Koenig, Case Study House #22, 1960

アメリカの建築雑誌『アーツ・アンド・アーキテクチュア』が企画した実験住宅プログラム「ケース・スタディ・ハウス」のひとつで、スタール邸とも呼ばれる。ロサンゼルスを一望する天井までのガラス壁で囲まれた建物は、映画や雑誌など数々のメディアに登場した。開放的なアイランド型キッチンが設置されている。

13 /14
ルイス・カーン フィッシャー邸 1967年
Louis Kahn, Fisher House, 1967

アメリカのフィラデルフィア郊外の自然豊かな場所に建つ。キューブ状のふたつの建物を、片方45度ずらして接続している。暖炉の脇にあるリビングの窓辺には、美しい景観を切り取るガラス窓や風を取り込む開閉窓、人が佇めるベンチなど、さまざまな用途が組み合わされている。

14 /14
フランク・ゲーリー フランク&ベルタ・ゲーリー邸 1978年
Frank Gehry, Frank & Berta Gehry House, 1978

アメリカのカリフォルニア州の、ありふれた建売の住宅を独自に拡張した自邸。使われている建材もまた、波型鉄板やチェーンリンクフェンス、既成の木材など、規格化された量産品である。ゲーリーは、既存の建物を大胆に再構築した本住宅によって、一躍その名を国際的に知られるようになった。



フランク・ゲーリー フランク&ベルタ・ゲーリー邸 1978年
Frank Gehry, Frank & Berta Gehry House, 1978
© Frank O. Gehry. Getty Research Institute, Los Angeles(2017.M.66)