ベラスケスの作品では、描かれた空間と現実空間とが交錯するかのように巧みに仕組まれた空間表現がみられます。描かれた人物とその人物が見つめる人物、絵を見る私たちなど、さまざまな視線の存在を意識せずにはいられない、現実空間と地続きのように構成された空間表現がベラスケスの大きな特徴といえるでしょう。
ベラスケスは、国王であれ、国王に仕える矮人や道化であれ、美化することなく等しく率直な眼差しを注ぎました。彼は、対象を尊厳ある一個の人間として眺め、すぐれた洞察をもってそれぞれの個性を描き出しました。また古代の偉大な哲学者や神話の神々を描く際には、理想化された姿形ではなくどこにでもいる市井の人々のような姿で描いています。気取りのないこれらの人物像は、身近で親しみやすい存在として私たちに訴えかけてきます。
ベラスケスの作品は、細部の緻密な描写によるリアリズムではありません。近くで見るとかたちを成さない、一見色の染みにしか見えない筆触(タッチ)が一定の距離を置いて眺めたときに像を結ぶような卓越した手法で描かれています。光や空気によって変化する対象の色彩や輪郭をとらえようとする極めて近代的なものの見方が根底にあり、ベラスケスが19世紀にエドゥアール・マネによって「発見」されたという事実はベラスケスの先見性、近代性を象徴している出来事といえるでしょう。
1599年 | 6月6日、スペイン、セビーリャに生まれる |
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1611年 | フランシスコ・パチェーコの工房に入り、徒弟修業を始める |
1617年 | 徒弟修業を終了。画家試験に合格し、セビーリャの画家組合に加入 |
1618年 | 師、パチェーコの娘フアナと結婚 |
1622年 | 最初のマドリード旅行に出発(4 月 ~ 翌年 1 月) |
1623年 | スペイン国王フェリペ 4 世の国王付き画家に任命される |
1627年 | 国王の私室取次係に任命される |
1628年 | マドリードに来訪したフランドル人画家ペーテル・パウル・ルーベンスと知己を得る |
1629年 | 第一次イタリア旅行に出発(1631 年帰国) |
1634年 | ブエン・レティーロ宮の装飾事業に携わる |
1636年 | トーレ・デ・ラ・パラーダのための作品の制作を始める |
1643年 | 王室侍従代に任命される |
1649年 | 第二次イタリア旅行に出発(1651 年帰国) |
1652年 | 王室配室長に任命される |
1656年 | この頃《ラス・メニーナス》(プラド美術館)を制作 |
1659年 | サンティアゴ騎士団への加入が認められる |
1660年 | 西仏国境のフェザン島にて、王女マリア・テレサとフランス国王ルイ 14 世の婚礼会場の設営を監督 マドリード帰還後の8月6日死去 |