福田翠光《鸛(カフノツル)1940年 絹本着彩
本年は、兵庫県が設置されて150年目にあたります。これを記念して、兵庫県立美術館収蔵品によって、「ひょうご近代」の150年を振り返ってみたいと思います。
最初の兵庫県は、開港した「兵庫」とその周辺の旧幕領を中心とするごく限られた小さいものでした。それが、旧国名でいうところの但馬、丹波、播磨、摂津、淡路の5つの地域を擁し、日本海と瀬戸内海という二つの海域に接する現在の大きさになったのは、1876(明治9)年8月21日のことです。このように大きな県が、なぜゆえに作られたかははっきりとしませんが、結果的には、文化や芸術の分野でみると、広い県域と多様な風土を反映して、多彩な人材を数多く輩出することとなりました。また、開国以来の港をかかえ、各地域に小さな中心が存在する当県には、県外から様々な人々が往来し、そのことによって文化・芸術の分野は大きな刺激を受けたものと推察されます。
本展では、150年の間に実際にあったできごとを線的にたどる、あるいは現実の風景に即して描かれた作品を紹介するばかりでなく、小説などの虚構によって作られたイメージにも目を向けて、ひょうごの150年の時空を自由に行き来してみることにしました。具体的には、いくつかのトピックを用意し、それに関係する作品を展示しますが、トピック設定と作品選定には、独断と一種のこじつけを恐れないことにしたいと思います。はっきりとした境界をもち、場としては専有的な兵庫県ですが、漠とした広がりの中で生起する虚実の中で見えてくる、具体的な「あちこち」や「そこ」や「ここ」、150年の時の流れの中の「あの時」や「この時」といった細部に目を凝らして、「ひょうご」を再発見したいと考えています。
常設展示室1
トピック

1兵庫県が、できた!


小松益喜《元居留地風景(伊藤町)》1939年 油彩・布

1868(慶応4・明治元)年5月にはじめて設置された兵庫県は、開港した兵庫を中心とする、現在よりずっと小さいものでした。では、現在兵庫県になっているその他のところは、いったい何県だったのでしょう?ちなみに、初代知事は伊藤博文で、その名は現在の神戸市中央区にある地名「伊藤町(いとうまち)」に残っています。

常設展示室1
トピック

2県鳥はコウノトリ


島袋道浩《そしてタコに東京観光を贈ることにした》
2000年 パフォーマンス/ビデオ・インスタレーション

花はノジギク、木はクスノキ、鳥はコウノトリ。これらは兵庫県のシンボルです。ここでは、県鳥コウノトリ(1956年、特別天然記念物に指定)を描いた作品を展示するとともに、シンボルではないものの、全国的に絶大な知名度を誇る明石のタコが重要な役割を果たす島袋道浩(1969-)の作品を展示します。

常設展示室1
トピック

3エキゾチックKOBE


川西英《古道具屋》1941年 木版・紙

慶応3年12月7日(西暦でいえば1868年1月1日)、神戸開港。えっ!開港したのは兵庫ではないの?というややこしい話はさておいても、外国と直接交通できる港を擁し、外国人居留地が設けられた神戸は爾来エキゾチックな町です。「舶来」という言葉も魅惑的なKOBEに関係する作品を紹介します。

常設展示室1
トピック

4描かれたひょうご(1)

木々を見つめる日々

県内の「ある場所」と関係する作品を展示しますが、作品本位でいうと、それがどこかということは余り問題ではないでしょう。作者の内的な何かや、ものの見方、絵を描く手法やイメージの出現に対する問いかけなど、ここでは「ひょうご」とは別なことを感じ考える必要がありそうです。

常常設展示室1・常設展示室2
トピック

5描かれたひょうご(2)

姫路・明石・西脇

トピック4と同様、県内の「ある場所」に関係する作品を展示します。しかし、トピック4の作品とは少し異なり、描く作者にとっても見る私たちにとっても、より重要なことは、「どこを描いているか」ではないでしょうか。

常設展示室2
トピック

6描かれたひょうご(3)


吉見敏治《JR新長田駅前(神戸市長田区)》1995年
木炭、コンテ、パステル、水彩、グアッシュ・紙

震災

1995(平成7)年1月17日に発生した阪神淡路大震災に関連する吉見敏治(1931- )、西田眞人(1952- )、福田美蘭(1963- )の作品を展示します。

常設展示室2
トピック

7三田・出石・尼崎

ここに紹介する小坂象堂(1870-1899)、天岡均一(1875-1924)、桜井忠剛(1867-1934)は、それぞれ三田、出石、尼崎の出身です。三田と出石は江戸時代後期から陶磁器の生産が盛んなところで、小坂と天岡もそうした前近代からの産業に関係していたようです。尼崎藩主の家系に生まれた桜井の描く《能道具図》には、自身の出自にまつわる思いが隠されているのかもしれません。


桜井忠剛《能道具図》油彩、漆・板
常設展示室2
トピック

8生野三巨匠、こんなにつぎつぎと

白滝幾之助(1873-1960)、和田三造(1883-1967)、青山熊治(1886-1932)といった中央画壇で活躍する画家を相次いで輩出した鉱山の町、生野。「こんなにつぎつぎ」というのは日本全国を見渡しても珍しい事例かもしれません。ここでは、3人による男性肖像画を展示し、それぞれの才能が背負った期待の地平を考えます。

常設展示室3
トピック

9 作者のいた日々


榎忠《ハンガリー国へハンガリ(半刈)で行く》
1979年/2011年

1977(昭和52)年、当時神戸市長田区在住の榎忠(1944- )は、毛髪、眉毛、脇の毛など、右半身の体毛を全て剃り上げました。いわく「半刈り」。そして、そのままハンガリーに旅行しました。10ヶ月ぐらいすると毛が生えてきたので、今度は左半身を剃り上げました。榎が「半刈り」状態だった約3年は、ひょうご近代150年の芸術における画期といえるでしょう。

常設展示室3
トピック

10 二中の画家たち

兵庫県立第二神戸中学校(現・兵庫高等学校)は幾人かの著名な画家を輩出しています。中でもとりわけ小磯良平(1903‐1988)、東山魁夷(1908-1999)という昭和の国民画家ともいえる二人の存在は圧倒的です。ここでは、、同校同窓会組織である武陽会より昨年度ご寄贈いただい小磯良平、東山魁夷、古家新(1897-1997)、田中忠雄(1903-1995)の作品を中心に展示します。

常設展示室3
トピック

11 タルホ愛


谷中安規《月》1932年 木版・紙

明石に住んで、関西学院普通学部(中学部)に学んだイナガキタルホ(稲垣足穂、1900-1977)の最初の著作『一千一秒物語』は、1920年代のモダニズムの空気を反映しながらも、終生続くタルホの異才ぶりを伝えてやみません。ここでは、カフェ、お月様、シネマなどタルホと同じ語彙を持つ版画家、谷中安規(1897-1946)の作品、1970年代にタルホを再発見することで自作を展開した中馬泰文(1939- )などの作品を展示します。

常設展示室5
トピック

12 美術館が、できた! 

県政100年記念事業計画のひとつとして建設が進められた当館の前身である兵庫県立近代美術館は、1970(昭和45)年に開館しました。開館当初の収集方針のひとつが、彫刻と版画でした。このセクションでは、常設展示室5の1室全部を使用して、当館収蔵品の中から近現代の彫刻作品の名品を展示し、それに関係する版画作品を展示します。

小磯良平記念室
トピック

13 小磯良平とひょうご、そして神戸

神戸生れの小磯良平ですが、生家と養家は三田藩の重臣の家系でした。ここでは、小磯と三田の関係を端的に示す三田学園所蔵の《放つ》(寄託品)を展示し、あわせて1962(昭和37)年10月に、朝日新聞紙上で掲載された「新人国記・兵庫県」の挿絵原画、小磯が東京藝術大学教授時代に新設した版画科に関係の深い駒井哲郎(1920-1976)、中林忠良(1937- )の版画作品を特別に展示します。

金山平三記念室
トピック

14 金山平三とひょうご、そして神戸


金山平三《メリケン波止場》1956~60年 油彩・布

金山平三の父、春吉は淡路島出身。若い頃から神戸に出て、海岸通にある蓬莱舎旅館の番頭をしていました。春吉は、ほぼ全財産をはたいて息子を約4年間のヨーロッパ遊学の旅に出したほか、東京暮しの平三が帰神した際は、自ら包丁を握って手料理を食べさせたといいます。金山平三にとって、神戸とは父の愛そのものだったかもしれません。ここでは、父春吉と神戸にまつわる作品を展示します。

常設展示室6
トピック

15 いきかうひとびと(1)

ふるさと、はなれて

日本画の巨匠、松岡映丘(1881-1938)と橋本関雪(1883-1945)は、それぞれ現在の福崎町、神戸市に生れましたが、最終的には画壇の中心である京都と東京で活躍しました。対して、村上華岳と小出楢重は、京都にいったん出ながら、あるいは生地である大阪で暮らしながら、それぞれ神戸、芦屋に居を構えることで晩年の傑作をものしました。ここでは、そうした4人の画家の作品と郷里で制作を続けた森月城(1887-1961)と乾太(1929-)の作品を展示します。※森月城、乾太作品は後期展示(9/4-11/3)。

常設展示室6
トピック

16 いきかうひとびと(2)


森田子龍《蕭々》1965年 墨・紙
※後期(9/4~11/4)のみ出品

ひょうご、大交流ものがたり

1950年代は芸術家どうしの交流が盛んな時代です。海外からの情報が絶たれ、芸術的な活動が制限されざるを得なかった戦争期の反動ともいえるでしょう。ここでは、書と絵画に焦点をあて、上田桑鳩(1899-1968)、森田子龍(1912-1998)、吉原治良(1905-1972)、津高和一(1911-1995)らの作品を展示し、50年代から70年代の交流の一端を紹介します。

常設展示室6
トピック

17 いきかうひとびと(3)

ブラジルへ

1928(昭和3)年、神戸市中央区山本通3丁目に国立移民収容所が建設され(「収容」の語が不適切なので名称は変化していきます)、南米、特にブラジルへの移住者がここを経てかの地へと渡っていきました。ここでは、戦前にブラジルに移住し、そこで絵を志してグループ「聖美会」を結成し、制作を続けた画家の作品を展示します。

関連事業
県美プレミアム
館外作品による小企画:美術の中のかたち―手で見る造形 触りがいのある犬―中ハシ克シゲ
収蔵品によるテーマ展:県政150周年記念 ひょうご近代150年 収蔵品でたどるひょうごのあちこち、150年のあの時この時