国際的にも大きな注目を集めてきた「もの派」を代表する美術家、李禹煥(リ・ウファン、1936年生)の待望の日本での大規模な回顧展を開催します。
東洋と西洋のさまざまな思想や文学を貪欲に吸収した李は、1960年代から現代美術に関心を深め、60年代後半に入って本格的に制作を開始しました。視覚の不確かさを乗り越えようとした李は、自然や人工の素材を節制の姿勢で組み合わせ提示する「もの派」と呼ばれる動向を牽引しました。また、すべては相互関係のもとにあるという世界観を、視覚芸術だけでなく、著述においても展開しました。
李の作品は、芸術をイメージや主題、意味の世界から解放し、ものともの、ものと人との関係を問いかけます。それは、世界のすべてが共時的に存在し、相互に関連しあっていることの証なのです。奇しくも私たちは、新型コロナウィルスの脅威に晒され、人間中心主義の世界観に変更を迫られています。李の思想と実践は、未曾有の危機を脱するための啓示に満ちた導きでもあります。
本展では、「もの派」にいたる前の視覚の問題を問う初期作品から、彫刻の概念を変えた「関係項」シリーズ、そして、静謐なリズムを奏でる精神性の高い絵画など、代表作が一堂に会します。また、李の創造の軌跡をたどる過去の作品とともに、新たな境地を示す新作も出品されます。
1936年、韓国慶尚南道に生まれる。ソウル大学校美術大学入学後の1956年に来日し、その後、日本大学文学部で哲学を学ぶ。1960年代末から始まった戦後日本美術におけるもっとも重要な動向の一つ、「もの派」を牽引した作家として広く知られている。1969年には論考「事物から存在へ」が美術出版社芸術評論に入選、1971年刊行の『出会いを求めて』は「もの派」の理論を支える重要文献となった。『余白の芸術』(2000年)は、英語、フランス語、韓国語に翻訳されている。50年以上に渡り国内外で作品を発表し続けてきた李は、近年ではグッゲンハイム美術館(ニューヨーク、アメリカ合衆国、2011 年)、ヴェルサイユ宮殿(ヴェルサイユ、フランス、2014年)、ポンピド ゥー・センター・メス(メス、フランス、2019 年)で個展を開催するなど、ますます活躍の場を広げている。国内では、2010年に香川県直島町に安藤忠雄設計の李禹煥美術館が開館している。本展は、「李禹煥 余白の芸術展」(横浜美術館、2005年)以来の大規模な個展となる。
1 |
「もの派」を代表する美術家、李禹煥の西日本では初めてとなる大回顧展です。 ※本展は2022年8月から国立新美術館で開催された展覧会が巡回するものです。ただし出品作品は一部異なります。 |
---|---|
2 | 展示構成は李禹煥が自ら考案しました。1960年代の最初期の作品から最新作まで、李の仕事を網羅的に浮き彫りにします。 |
3 | 彫刻と絵画の2つセクションに大きく分かれています。彫刻と絵画の展開の過程が、それぞれ時系列的に理解できるように展示されます。 |
4 | 安藤忠雄設計による兵庫県立美術館の建築に合わせ、屋外にも新作が展示されます。 |
5 | 音声ガイドはなんと無料。ナビゲーターは俳優の中谷美紀さんが務めます。 |
主 催 | : | 兵庫県立美術館、朝日新聞社、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁 |
---|---|---|
協 力 | : | SCAI THE BATHHOUSE |
協 賛 | : | 公益財団法人伊藤文化財団 |
助 成 | : | 一般財団法人安藤忠雄文化財団 |
特別協力 | : | 公益財団法人日本教育公務員弘済会 兵庫支部 |
当日 | 前売 12/12まで |
||
---|---|---|---|
一般 | 1,600円 | 販売終了 | |
大学生 | 1,200円 | 販売終了 | |
高校生以下 | 無料 | ||
70歳以上 | 800円 | - | |
障がいのある方 一般 | 400円 | - | |
障がいのある方 大学生 | 300円 | - |
ナビゲーターは、ドラマや映画など多方面で活躍する俳優の中谷美紀さんが務めます。
中谷美紀さんによるご案内のほか、李禹煥ご本人による作品解説、本展担当学芸員による説明を収録しています。
ナビゲーター :中谷美紀(俳優)
作家解説 :李禹煥
キュレーター解説:米田尚輝(国立新美術館主任研究員)、小林公(兵庫県立美術館学芸員)
収録時間 :約30 分
※イヤホンまたはヘッドホンをお持ちください。
※ガイドのご利用には無料Wi-Fiへの接続かデータ通信が必要となります。
※ご希望の方には、音声ガイド機の貸出もあります。但し、台数には限りがございますので、お待ちいただく場合がございます。
※耳がご不自由なお客様へは音声ガイドの台本の貸出を無料で行っております。
<中谷美紀さんのメッセージ>
「この上なくシンプルな点や線、そして石や鉄板などで表される李禹煥さんの作品は、溢れた物や情報に埋もれて息苦しく感じている現代に生きる私たちの心身を解き放ってくれます。俗に言う肖像画や静物画、風景画などは一切ありませんが、点や線の周囲に贅沢に残された余白こそが饒舌に語りかけてくるような気がしています。私にとって李禹煥さんの静かで厳かな作品は、心の拠り所であり、少しがんばりすぎたり、急ぎすぎた際に、ふと立ち止まって、自らを省みるための鏡のようでもあります。これらの作品群を鑑賞する際に、決して正解はありません。ご覧になる方が思い思いに作品と向き合い、対話し、斜めから眺めてみたり、かがんで見上げてみたり、時には彫刻作品の上を歩いてみたりすることで、これまで生育過程や社会で植え付けられてきたステレオタイプな価値観を疑ってみる機会となるのではないでしょうか?」
1976年1月12日生まれ。東京都出身。1993 年に俳優デビュー。『壬生義士伝』(03/滝田洋二郎監督)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞、『嫌われ松子の一生』(06/中島哲也監督)で同賞最優秀主演女優賞、『自虐の詩』(07/堤幸彦監督)で同賞優秀主演女優賞、『ゼロの焦点』(09/犬童一心監督)で同賞優秀助演女優賞、『阪急電車 片道15 分の奇跡』(11/三宅喜重監督)で同賞優秀主演女優賞、『利休にたずねよ』(13/田中光敏監督)で同賞優秀助演女優賞を受賞。
2011年に初舞台「猟銃」で紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞、2013年の「ロスト・イン・ヨンカーズ」では読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞する。
「オーストリア滞在記」(幻冬舎文庫)など書籍の執筆活動も手掛ける。