今回のコレクション展では、4つの展示室を使って、特別展「石岡瑛子 I デザイン」(9/28-12/1)と連動し、当館所蔵作家の約1割を占める女性作家の中から約60人の作家の作品を展示するとともに、女性が描かれた作品によって、今日的なジェンダー論への理解を深めます。
恒例の「美術の中のかたち」では、石彫作家、北川太郎(1976年生まれ、兵庫県姫路市出身)の石彫作品を、彫刻作品を並べる展示室5の東側部分で開催します。また、本多錦吉郎《羽衣天女》(1890年作、平成11年度伊藤文化財団寄贈)が重要文化財に指定されたのを記念して、同作品および関連する作品を特別陳列するとともに、昨年度収蔵したヨシダミノル《作品》、清宮質文らの版画作品を紹介します。
当日 | 団体 (20名以上) |
特別展との セット料金 |
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一般 | 500円 | 400円 | 300円 | |
大学生 | 400円 | 300円 | 200円 | |
70歳以上 | 250円 | 200円 | 150円 | |
高校生以下 | 無料 |
当館所蔵作家のうち女性作家は約100名で、これは全体作家数の1割となっています。
さて、「みるわたし」と題する本セクションでは、女性作家約60名による絵画、写真、立体作品を「生活」「私の身体」「風景」「素材」「歴史・物語」「反復と拡大」という6つのキーワードをもとに紹介します。日本ではじめて油彩の技術を教育した工部美術学校卒業生の神中糸子(1860-1943)から最年少作家の谷原菜摘子(1989- )まで、世代を超えた作品で構成します。性別的役割と切り離すことの困難な「生活」や、物理的な特徴である「身体」というテーマにおいては、女性特有とされる共通点を見出すことができるかもしれません。一方で、多様な素材を扱い、様々なモチーフの表現が展開されるなかで、その性差を読みとることはできるのでしょうか。
「みるわたし」に続いて「みられるわたし」では、主に近代の日本における女性が描かれた作品を、「ある女性」「はたらく女性」「母と子」「裸婦」のキーワードのもとに展示します。画家が作品を描き、それを鑑賞者が見るという過程において、女性たちは幾重にもわたって雅俗様々な意味を付与されてきました。あどけない、色気、純朴、清潔、しどけない──、絵の中の女性を表す言葉には、枚挙にいとまがありません。描かれた女性たちは、現実に生きる女性を写す鏡となっている以上に、社会の中で女性がどのようにまなざされてきたのかを確かに伝えています。他方、そうした意味付けは、対象となった現実に生きた女性たちとどのような関わりを持っているのでしょうか?ここでは女性が描かれた芸術作品を通じ、女性たちに向けられてきた様々な「まなざし」を考える機会とします。
本多錦吉郎《羽衣天女》(平成11年度 伊藤文化財団寄贈)が重要文化財に指定されたのを記念して、今回のコレクション展Ⅱの会場冒頭で展示します。
本作では、富士山と駿河湾を眼下におさめながら昇天する羽衣天女という伝統的な画題が、明治に入って新しく移入された油彩技術により迫真的に描かれています。作者の本多錦吉郎は、明治10年代の洋画排斥の冬の時代を、師から引き継いだ画塾・彰技堂で門下生を指導しながら生き抜き、洋画復活のとば口となった1890(明治23)年の第3回内国勧勧業博覧会に本作を出品し褒状を得ました。明治初期の洋画をけん引した他の画家と同様、本多の作品も多くは残されておらず、この点からも本作は貴重です。このほか、本多と同時代を生きた大野幸彦(1859-1892)と桜井忠剛(1867-1934)の作品も展示しますので、彼らの新技術である油彩画に注いだ熱情をご覧ください。
戦後日本の版画に大きな足跡を残した清宮質文(1917-91)と駒井哲郎(1920-76)は、ともに自己の内なる世界を「版」という技法の探究によって表現してきた作家です。昨年度当館では公益財団法人伊藤文化財団の寄贈により、清宮質文の初期から晩年までの木版画16点を新たに収蔵しました。ここでは、これらの作品と駒井哲郎による銅版画を中心に、彼らが敬愛したオディロン・ルドン(1840-1916)によるリトグラフ、さらに交友のあった岡鹿之助(1898-1976)、野見山暁治(1920-2023)の絵画など同時代の作家の作品をあわせて紹介します。
関西の前衛美術グループ・具体美術協会の後期のメンバーとして重要な位置を占めるヨシダミノル(1935-2010)の作品を、公益財団法人伊藤文化財団の寄贈により昨年度やっと収蔵しました。当館にとっては待望の一作です。今回は「わたしのいる場所─コレクションから「女性」特集!」での「反復と拡大」というキーワードに合わせ、同じく後期具体のメンバーである聽濤襄治(1923-2008)の作品と共に、繰り返しの図様が生む視覚的快楽を堪能いただきます。
展示室5では年間を通じ、当館の近現代彫刻コレクションを紹介しています。今期は、2名の女性を含む彫刻家たちの、第2次世界大戦後の作品をご覧いただきます。朝倉響子や佐藤忠良の女性立像、バーバラ・ヘップワースやヘンリー・ムーアによる有機的な抽象彫刻をはじめ、1945年以降、1980年代初めまでの国内外の作品例を展示します。
なお今年は、恒例のシリーズ展「美術の中のかたち―手で見る造形」も当室で開催します。
「女性」特集にちなんで、小磯良平(1903-89)と女性モデルについて考えます。東京美術学校を卒業し神戸に帰って来た小磯良平ですが、神戸にはヌード(裸体)のモデルがおらず、東京からモデルをよんでいたといいます。また、画壇デビュー作《T嬢の像》の時と同様、着衣の人物を描く場合は、職業モデルではなく、共感の持てる身近な対象が小磯にとってベストでした。アトリエに集う友人や近所に住むフランス人女性にモデルをお願いしていた小磯でしたが、1930年代半ばに《踊り子》(1938年)や《肖像》(1940年)《斉唱》(1941年)のモデルを務めることになる女性と出会ってからは、空間や色彩など造形的な課題にも果敢に取り組み、つぎつぎと傑作をものしたのでした。
「女性」特集にちなんで、金山平三(1883-1964)の妻で、当館所蔵の金山作品の多くの寄贈者でもある金山らく(1888-1977)に注目します。金山らくは、旧姓を牧田といい、日本で初めて帝国大学に入学した3人の女性のうちのひとりという歴史的人物でもあります。1919年の結婚当初、東京女子師範学校で教鞭をとっていたらくですが、しばらくして職を辞し、その後は自宅で数学の勉強を続け学会誌に論文を発表するなどしています。1925年の自宅兼アトリエの建設にも尽力し、1956年の自選展「金山平三画業五十年展」にも大きな役割を果たしました。今回の展示では、そうしたらくを当館所蔵資料によって紹介するとともに、大石田、十和田を描いた平三作品を展示して、写生地とらくの関係も考察します。