特集 『なぜここにいるの』-伊藤文化財団寄贈作品・新収蔵品を中心に [前期]9月26日[日]まで
[後期]10月9日[土]から
特集 『なぜここにいるの』-伊藤文化財団寄贈作品・新収蔵品を中心に [前期]9月26日[日]まで[後期]10月9日[土]から

展示室に並ぶ作品たちは、なぜ、今ここにいるのでしょう?
今年設立40周年を迎える伊藤文化財団からの寄贈作品や、昨年度、当館にきたばかりの新収蔵品を中心に紹介する今期の「特集」では、コレクションの成り立ちや作品の来歴といった収集活動の裏側に注目します。

1ここにいる人、いない人。

みんなが見たいと思う良い作品たちのいる場所、それが美術館です。とはいえ、単に良い作品というだけなら、世の中には山ほどあります。この美術館にいる人といない人との分かれ目は、どこにあるのでしょう。まずは当館の収集方針をご紹介します

❶ 巨匠を間近に

当館の前身、兵庫県立近代美術館の開館は1970(昭和45)年。西洋美術の「本物」に触れられる場は、まだまだ限られていました。
そこで当館がとったのは、一点豪華主義の逆。彫刻や版画はひとつの型や版から複数の「本物」が出来る分、お値段が安い。印象派の有名な油絵一枚を買う代わりに版画や彫刻をたくさん買い、美術の流れがある程度わかるコレクションを目指したのです。


オーギュスト・ロダン《永遠の青春》
1884年 昭和47年度購入
❷ ひょうごの美術館だから。

日本にある県立の近代美術館ですから、日本の近代美術、なかでも県ゆかりの作家という視点は欠かせません。
洋画の黎明期の先駆者(神中糸子)から、惜しくも若くして戦死した前衛画家(浅原清隆)、戦後、デザインと絵画をまたいで活躍した異才(今竹七郎、横尾忠則)まで…。他所ではなかなかお目にかかれない、ひょうごならではの作品たちが、ここには集まっています。


浅原清隆《敗北》
1935(昭和10)年
平成10年度渡辺美枝子氏寄贈

神中糸子《揖保川風景》
昭和49年度神中茂次氏寄贈

浅原清隆《敗北》
1935(昭和10)年
平成10年度渡辺美枝子氏寄贈
❸ 時代を共に生きる

1986(昭和61)年度、「山村コレクション」が当館所蔵品に加わります。県下の企業家・山村德太郎(1926~1986)が、自分と同時代を生きる作家たちの作品を集めた一大コレクションです。
このコレクションの収蔵をきっかけに当館の収集方針には、私たちと時代を共に生きる作家たちによる「現代美術」という新たな柱が加わりました。


吉村益信《豚・pig lib;》1971(昭和46)年
山村コレクション 昭和61年度購入
2伊藤文化財団40年の寄贈作品

作品がどのように美術館にやってくるのか、集め方に注目すると、「買う(購入)」「いただく(寄贈)」「預かる(寄託)」の3つに分かれます。うち「いただく」の特別な例が、伊藤文化財団の寄贈作品です。館にふさわしい作品を持ち主から財団が購入し寄贈するという方法で、1981(昭和56)年の設立以来、40年の間に当館にやってきた作品は、951点にのぼります。
※伊藤文化財団の寄贈作品は、この章以外にも展示しています。


ジャン・アルプ《陽気なトルソ》1965年
昭和57年度財団法人伊藤文化財団寄贈
❶ 長きご縁があってこそ

芦屋にアトリエを構えた洋画の巨匠・小出楢重や、同じく芦屋を拠点に前衛美術グループ具体美術協会を率いた吉原治良など、当館コレクションに欠かせない重要な作家やグループのいくつかは、40年にわたる息の長いご支援のもと、重点的な収集が実現しています。昨年度の新収蔵品である吉原の小品群には、過去の寄贈作品と関連する作品も含まれています。


小出楢重《裸女》1925(大正14)年
平成30年度公益財団法人伊藤文化財団寄贈

吉原治良《群像》
1946(昭和21)年頃
昭和60年度財団法人伊藤文化財団寄贈

吉原治良《(無題)》
1946(昭和21)年頃
令和2年度公益財団法人伊藤文化財団寄贈
❷ 歴史を語る名品

伊藤文化財団からは、日本の近代美術史を語る上で欠かせない数々の名品も寄贈を受けています。
天使のような翼根を持つ和洋折衷の《羽衣天女》は、日本に洋画の技術が移入されて間もない明治期ならではの作品です。長らく所在不明でしたが、1990(平成2)年、当館の「日本美術の19世紀」展で、ほぼ一世紀ぶりに公開されました。


本多錦吉郎《羽衣天女》
1890(明治23)年
平成11年度財団法人伊藤文化財団寄贈
❸ 作品たちの数奇な人生

美術館に入る前、作品たちは、どこでどのような人生を歩んでいたのでしょう。
北村四海の《橘媛》は、神戸・御影に1935(昭和10)年に建てられた邸宅の敷地内にありました。設置までの詳しい経緯は不明ながら、おそらく戦前であったと思われます。戦時中の金属供出と阪神・淡路大震災を無事に生き延び、当館にやってきました。


北村四海《橘媛》
1915(大正4)年(原型発表)
平成21年度野村殖産株式会社寄贈
日和崎尊夫を中心に~ビュランの世界、
詩画集の世界~
[常設展示室4/後期]

日和崎尊夫は、明治時代に興隆をみて以来下火になっていた木口木版画を現代に再興させた最大の功労者です。本展示では、ご寄贈により新しく収蔵した日和崎尊夫作品を中心に、弟子にあたる柄澤齋の木口木版画、木原康行と東貞美のエングレーヴィングを展示します。


日和崎尊夫《KALPA ?‘69》
1969(昭和44)年 
令和2年度村松千代氏寄贈
近現代の彫刻
[常設展示室5]

ロダン以降、現代までの多様な彫刻作品を紹介します。

近代の日本画・洋画
[常設展示室6]

日本画は特集にあわせ、伊藤文化財団寄贈作品と昨年度の新収蔵品を中心に、橋本関雪、村上華岳、水越松南、岡本神草の作品を紹介します(前期、後期ですべての作品を展示替えします)。
洋画は当館コレクションを代表する名品を中心に、明治から戦前までの作例を展示します。

小磯良平記念室
金山平三記念室

小磯良平記念室では、画家が得意とした気品あふれる女性像を中心に展示します。ヨーロッパ滞在を経て自身の画風を確立した小磯は、生涯にわたって「身体をどう表現するか」という課題に取り組みました。その結果生み出された作品には、正確なデッサン力と西洋絵画を真摯に学んだ小磯の姿勢が反映されています。
金山平三記念室では、画家の旅した地の風景とそこで生活を営む人々を描写した作品を集めました。風景画の名手として知られる金山ですが、その風景の中に溶け込む生き生きとした人物表現も、金山作品の大きな見どころの一つです。特集にあわせて、寄贈による新収蔵品も展示します。
西洋絵画の伝統と技法を生涯にわたり追求した小磯と、風景を詩情たっぷりに描いた金山。まるで国内外を旅するような感覚で、二人の絵画世界をお楽しみください。


金山平三《京城郊外》1941(昭和16)年
金山らく氏寄贈
(昭和45年度管理換)
※新型コロナウイルス感染拡大防止等のため、予定を変更する場合があります。