兵庫県立美術館では、前身の県立近代美術館が開館した1970年以来、作品の充実に努めてきました。それらを積極的に紹介し変化ある常設展示室の演出を心がけるために、当館では2019年度より、1年を2回に分けて、それぞれ展示のテーマを設けることによって、横断的にコレクションを紹介しています。
2021年は、暦年でコレクション展を開催します。その第Ⅰ期の特集「同級生・同窓生」では、常設展示室1~3を用いて、当館所蔵品のうち、いわゆる官展や在野の美術団体展に出品された作品を、それぞれの展覧会ごとにまとめて展示します。
ひとりの人間がその人格とは別にいわゆる肩書きを持つことで、社会に対して一定の影響力を保つように、美術作品もそれ自体の美や表現力とは別に、「出品歴」という側面を持ちます。作品の属性のひとつに過ぎないこの「出品歴」が、一方でその時代や社会における美術家や所属する団体、開催された展覧会の歴史的意義や価値をあらわにし、翻ってその作品の価値を高めることもあります。この展示がそうした当館コレクションの作品が持つさまざまな側面やつながりを発見する場となりましたら幸いです。
その他の展示室では、当館の主要なコレクションを形成するジャンルである版画・彫刻、また神戸出身の洋画家、小磯良平と金山平三の作品をそれぞれ数多く出品します。会期の後半に開催する小企画「頴川コレクション・梅舒適コレクション受贈記念展」とあわせてお楽しみください。
当館で記念室を設け、その画業を通年にわたり顕彰する金山平三と小磯良平は、それぞれ東京美術学校を首席で卒業したという共通点を持ちます。ここでは彼らの美校生時代の作品を展示し、また同校にわずか数年間だけ設けられた「臨時写真科」の卒業生である中山岩太の学生時代の写真作品もあわせて紹介します。
戦前から戦後にかけての日本の美術界では、当時の文部省などが中心に開催した公募展「文展」「帝展」など、いわゆる官展が大きな影響を与えてきました。一方でそうした動きから距離を置き、研鑽を積む「二科会」や「独立美術協会」、「行動美術協会」といった在野の美術団体がそれぞれ展覧会を開き、その実力を世に問うてきました。
ここでは戦前から戦後にわたって、そうした展覧会の同じ回に出品された作品をあわせて展示します。
前章で紹介したように、それぞれの美術団体の出身であることが日本の美術界では大きな意味を持っていました。しかし官展や在野団体の区別なくすぐれた作品を結集したいという人々の思いは、1940年開催の「紀元二千六百年奉祝美術展覧会」をはじめとして実現し、それらの意向は戦後にもさまざまな形で実施されました
ここではそれらのうちいくつかの同じ展覧会に出品された当館蔵品を紹介します。
当館は、前身である兵庫県立近代美術館の開館以来、国内外の近代版画を収集の柱のひとつに据えてきました。今回の展示では、5000点に及ぶ版画コレクションの中から、マックス・エルンスト(1891-1976)とジョアン・ミロ(1893-1983)の作品を紹介します。
ドイツのケルン近郊に生まれたエルンストは、小説の挿絵など既存のイメージを切り貼りするコラージュや、木の板などの表面の凸凹を転写するフロッタージュやグラッタージュなど、様々な技法を駆使して不可思議な情景を生み出しました。対するミロはスペインのバルセロナ出身で、自由な線描が生み出す様々なイメージ、あるいはキャラクターと言っても良いようなユーモラスな形が画面に漂うユーモラスな作風で知られています。 20世紀における重要な芸術動向のひとつであるシュルレアリスムの代表的な作家であるエルンストとミロのミニ二人展をお楽しみください。
近現代の彫刻は、版画と並ぶ当館の収集の柱のひとつです。今期の彫刻室の展示では、大小あわせると300点を越える彫刻コレクションの中から厳選した作品によって、彫刻表現の歩みをたどります。
ロダンを始祖とする近代彫刻において、人体、特に女性の身体表現は常に中心となるモチーフでした。20世紀に入ると、単純で抽象的な形態によって人体をとらえようとするもの、反対に内側の構造を考えることで人体やその他の形体を成立させようとするもの、さらには何かのかたちを再現することから離れて自由な造形を試みるものなど、モチーフもその表現方法も様々に展開してゆきます。こうした「彫刻」における革新は、ルイーズ・ネヴェルスン(1899-1988)やバーバラ・ヘップワース(1903-1975)、三島喜美代(1932- )といった女性作家によってももたらされました。
彼ら、彼女らによる多彩な作品を、その技法や材質にも注目しながらお楽しみください。
小磯良平(1903-1988)は神戸に生まれた洋画家で、人物画の名手として知られています。東京美術学校(現在の東京藝術大学)在学中に帝展特選となるなど、早くからその才能を認められる存在でした。卒業後はヨーロッパ滞在を経て、1936年に新制作派協会を結成。以後、同展を中心に活躍します。
洗練された気品ある女性像を得意とする小磯ですが、《婦人像》(1924年)な
ど東京美術学校時代の最初期の作品では、むしろ素朴で、瑞々しい生命力のある女
性像が目立ちます。小磯が表現した女性の「美しさ」の、年代ごとの変遷にご注目
ください。
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神戸出身の金山平三(1883-1964)は、東北や北陸をはじめとして日本各地を旅して風景を描き続けた洋画家です。金山の没後、ご遺族から多数の作品と資料が兵庫県に寄贈され、このことが当館の前身である県立近代美術館開館のひとつの契機となりました。
本展示では、金山の筆がとらえた様々な水辺の風景をご紹介します。広大な湖とその周りの牧歌的風景、周囲の木々や空を水面に映す静かな川の流れ、そして人で賑わう港に至るまで、金山の描く「水辺」の表情は実に多様です。季節や天候、周囲のにぎわいに合わせて巧みに描き分けられる水が、ひとつひとつの絵画の性質を方向づけています。
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