当館の前身である兵庫県立近代美術館では、1989年から継続的に「美術の中のかたち‐手で見る造形」と題する展覧会を開催してきました。彫刻をはじめとする立体的な作品に、じかに手で触れて鑑賞する展覧会です。この展覧会は、視覚に障害のある方々にも美術館を訪れる機会を増やしてもらいたいという思いと、目で見ることを前提とする美術館という場所に触覚による鑑賞方法を取り入れることによって、美術鑑賞のあり方そのものを問い直すという目的から始まったものです。 兵庫県立近代美術館を発展的に継承して2002年4月に開館した兵庫県立美術館でも、引き続き「美術の中のかたち」展を開催します。これまでは、館所蔵の彫刻と複数の現存作家による展覧会という形式をとることがほとんどでしたが、今回は館蔵彫刻と光島貴之さんという一人の作家による作品を展示することにしました。以前は現存作家による作品と館所蔵の近代彫刻の関係が希薄であり、展覧会の構成の中でいかにも唐突にロダンなどのブロンズ彫刻が設置されているという印象がありました。この問題を解消するために、今回の展示では出品作家の光島さん自身に展示する館蔵彫刻を選んでいただき、光島さんには選んだ彫刻と関連した作品を新たに制作してもらうようお願いしました。これによって、館蔵彫刻と現代美術が有機的に関連した展覧会構成が可能になったのです。 各地での展覧会やワークショップで活躍中の光島貴之さんは、10歳の頃に視力を失いました。最初は粘土による立体作品を制作していましたが、1995年から始めた黒いラインテープによるドローイングで高い評価を受け、その後は赤や青など多色のテープや塩ビシートを用いて表現の幅を広げるとともに、自ら録音した音をもちいた作品や施設の壁や窓に直接描くインスタレーションなど多彩な作品を制作しています。京都在住の光島さんは、1991年の第3回展以来しばしば「美術の中のかたち」展を見られており、当館は展示方法などについてさまざまな助言をいただいてきました。その光島さんが、今回は出品作家として「美術の中のかたち」展に関わることになったのです。これまでもしばしば触れてきた当館の作品から、光島さんは何を読み取り、そこに美術家としてどのような解釈を加えるのでしょうか。この展覧会を通じて、光島貴之さんの作品の魅力とともに、館蔵彫刻の新たな見方を発見していただけましたら幸いです。
●1月25日(土)14時より アーティスト・トーク 出品作家が語る「美術の中のかたち」 ※聴講は無料ですが、展覧会のチケットが必要です。
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![]() ![]() みつしま・たかゆき 京都市北区在住 ■1954年 京都に生まれる。先天性緑内障のため、幼時期の視力は0.02程度。10才頃失明 ■1995年 フラービオ・ティトロ(全盲の石彫作家)のドローイングにヒントを得て「触る絵画」の制作を開始 ■1995年2月「ミューズカンパニーグループ展」出品(ギャラリーTOM・東京) ■1997年4月「3人の視触会」出品(ギャラリーはねうさぎ・京都) ■1997年10月 公募展「第2回地球のみんなのアートフェスタin北九州」入選 ■1997年11月「アジアの風」展出品(東京芸術劇場) ■1998年3月 公募展「98長野アートパラリンピック」大賞(立体部門)、銀賞(平面部門) ■1998年4月 個展「光島貴之展」(ギャラリーはねうさぎ・京都) ■1998年11月「アート・ナウ98ほとばしる表現力‐アウトサイダー・アートの断面」出品(兵庫県立近代美術館・神戸) ■1999年2月「このアートで元気になる‐エイブル・アート99」出品(東京都美術館) ■1999年5月 「芸術祭展・京‐SKIN‐DIVE」出品(元 龍池小学校・京都) ■1999年6月 個展「光島貴之の世界」(ギャラリイK・東京、2000年3月も開催) ■1999年7月 個展「光島貴之個展」(ギャラリーうず潮・大阪) ■1999年3月 安斎利洋・中村理恵子とのコラボレーション「触覚連画」をインターネットで公開 ■2000年3月 「アーティストブックプロジェクト/世紀末を愛でる尋常文庫の100冊」出品(ウエストベスギャラリーコヅカ・名古屋、同年東京、京都、前橋でも開催) ■2000年7月 「よろこび・びっくりアート展‐多様な表現との出会いを求めて」出品(富岡市美術博物館) ■2001年1月「流動する美術VII‐視覚を越えて・巡りて 日高理恵子/光島貴之の絵画」出品(福岡市美術館) ■2001年3月「記憶の賞味期限展‐北村良子・光島貴之」出品(神戸アートビレッジセンター) ■2001年10月 「エイブル・アート近畿2001〈ひと・アート・まち〉」出品(京都芸術センター) ■2001年11月 「私にできること〜みる、きく、ふれるの探検」出品(府中市美術館) ■2001年2月 個展「光島貴之展」(ハートフィールドギャラリー・名古屋) ■2002年4月「リテーク‐とらえなおされる日常」出品(せんだいメディアテーク・仙台) ■2002年5月 個展「光島貴之展」(カフェ&ギャラリーSaan・長野県真田町) その他、グループ展出品、ワークショップの開催、シンポジウム、テレビ等メディアへの出演など多数 光島貴之ウェブサイト http://homepage3.nifty.com/mitsushima |
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