マルセル・デュシャンの《トランクの中の箱》は、デュシャン自身の主要作品のミニチュアや写真複製等で構成された作品です。それ自体も作品の一部である「箱」に全ての構成要素を収納することが可能で、デュシャン芸術が凝縮した「持ち運びできる、小さな美術館」(デュシャンによる言葉)として作られています。
本作は、購入したコレクターが個人的に手に取って眺めるか、或いは美術館等で公開される場合にはその集合体的な性質が強調され、「箱」の周囲に個々の要素が折り重ねられる展示方法が一般的です。そのため、納められた構成要素のひとつひとつが公共の場で提示される機会はほとんどなかったといえます。
この小さな箱を「持ち運びできる、小さな美術館」と形容したデュシャンの言葉を文字通り受け取るひとつの方法として、この小企画展では、本作の個々の要素(80アイテム)の提示を試みます。可能な限り全ての要素を見ることができる状態で展示することで、各構成要素のひとつひとつに目を向けると共に、本作品の全体像を「見る」ことが可能になります。小さなトランクから次々と作品が現れる、本作独自の魅力をご堪能いただける機会となります。
作者マルセル・デュシャン マルセル・デュシャン(1887-1968 年)は20 世紀を代表する芸術家のひとりです。画家として出発した彼は、次第に絵画や彫刻といった伝統的な芸術の枠組みから遠ざかり、大量生産された既製品を選択して作品とする「レディ・メイド」や、機械仕掛けの男女が織りなす「愛」の神話をガラス上に視覚化した《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称《大ガラス》)等、「芸術作品」や「芸術家」の概念を問い直す作品を多く発表しました。 |